土地や建物の所有者が亡くなった場合、相続登記といった名義変更の手続きが必要になります。
相続時の名義変更を先送りにすると、差し押さえなどリスクが生じることもあります。
スムーズに名義変更手続きを行うために必要書類や費用、方法を確認しておくことでトラブルなども回避しやすくなるのでポイントを確認しておきましょう。
死亡後の名義変更しないリスク
名義変更は義務ではありませんが、しないことでいくつかのリスクが挙げられます。
他の相続人の持分を差し押さえられたり、売却されたりするおそれがある
名義変更をしていなければ、他の相続人の債権者等から家を差し押さえられるおそれがあります。
家などの相続財産は遺産分割が済むまでは、すべての相続人が相続分に応じて共有している状態です。
遺産分割協議で誰がどの財産を取得するかを決めて遺産分割を行うと、協議で決まった相続人がその財産を取得することになります。
しかし家を取得した相続人は名義変更しなければ、その家についての権利を第三者に対して主張することはできません。
名義変更を行っていない状態は第三者から見れば、まだ遺産分割が済んでいない共有状態になるのです。
つまり他の相続人の債権者はその相続人が債務を弁済しない場合は、相続財産についてのその相続人の持分を差し押さえることができることがあるのです。
また他の相続人に債務がある場合だけでなく、他の相続人が勝手に共有登記をして共有持分を売却することもできてしまいます。
そうなれば、見ず知らずの人と不動産を共有している状態になってしまいます。
この状態を解消して不動産を単独で所有するには、共有持分を買い取ることになるでしょう。
共有持分の買い取りに要した費用は債務者であった相続人に求償することができますが、差し押さえを受けるくらいなので、求償に応じる程の資力がなく、回収することは難しいでしょう。
不動産の売却・担保設定ができない
名義変更をしていないと相続した家を売却したり、家に担保権を設定したりすることができません。
それでは売却したり担保権を設定したりする時に、名義変更をすればよいではないかと思われるかもしれませんが、それはお勧めできません。
その理由は2つあります。
ひとつは前述の通り、その間に家を差し押さえられるおそれがあるからです。
もうひとつは名義変更をしようと思った時には権利関係が複雑化して、名義変更をすることが大変になっていることがあるからです。
次の相続時に2倍の費用がかかる可能性がある
名義変更をしないとその人が名義変更費用を節約できても、その人の相続人が、その人の分まで名義変更費用を負担しなければならない可能性があります。
どういうことかというと、例えば、家の所有者が亡くなって(一次相続)、相続人がその家について名義変更をしないまま亡くなったとします(二次相続)。
二次相続の相続人が名義変更をする場合には、一次相続の名義変更と二次相続の名義変更の2回分の名義変更をしなければならず、倍の費用がかかってしまうのです。
したがって、名義変更費用の節約のために名義変更をしないということは、次の世代に自分の分の名義変更費用を押し付けているという言い方もできます。
相続時の不動産の名義変更では、多岐にわたる複雑な手続き等が発生します。
正しくそして不利益が出ないようにするために、司法書士をはじめとした専門の士業に相談することをおすすめします。
名義変更に期限はあるのか
名義変更には期限は定められておらず、いつ行っても問題ありません。
しかし早めに名義変更をしておくことがおすすめです。
名義人が設定されていないと第三者に対して所有権を主張できなくなる場合があるので、注意しましょう。
特に名義人が死亡している場合は早めに名義変更をしておかないと、手続きがややこしくなることもあります。
名義人が死亡しその後名義変更をしないままに相続予定の人が死亡すると、権利関係が複雑に絡み合ってしまい、次の相続でトラブルに発展することも少なくありません。
名義変更の期限はなく行わなくても罰則はありませんが、将来的には義務化される可能性があります。
名義変更の義務化は国会の法案として通る見込みがあるので、現在は不要でも将来的には必須となると考えておいた方が良いのかもしれません。
名義変更の手順
登記事項証明書を取得する
登記事項証明書は、不動産の権利関係と地番を正確に確認することができる書面です。
必ずしも必要な書類ではないのですが、被相続人がその不動産の所有権を持っていなければそもそも名義の変更ができないため取得し、確認することをおすすめします。
登記事項証明書の発行はその不動産を管轄する法務局である必要はなく、全国の地方法務局の出張所であればどこでも発行することが可能です。
なお登記事項証明書と登記簿等本は同じものであり、登記事項証明書はコンピュータ化されているところで発行した書面、登記簿謄本はコンピュータ化されていないところで発行した書面という分類になります。
必要書類を準備する
所有者が死亡した際には名義変更の手続きが必要であり、この際にはいくつか書類を用意しなければなりません。
手続きの際に準備する書類は大きく分けると次の2つです。
・権利関係を確認する書類
・法務局に提出する書類
これら2つの書類を把握して、手続きの際にスムーズに準備できるようにしておきましょう。
権利関係を確認する書類
相続の対象となる不動産の権利関係を確認する書類は事前に用意しておきましょう。
権利関係の書類としては、登記事項証明書や不動産の権利書などが必要です。
登記事項証明書は法務局で、戸籍謄本は市区町村の役場などで取得できます。
また不動産の権利書は所有者が持っていたものを確認しておき、事前に用意しておきましょう。
法務局に提出する書類
相続登記で法務局に提出する書類は、次の通りです。
・登記事項証明書
・戸籍謄本
・除籍謄本
・改製原戸籍
・住民票
・住民票除票
・印鑑登録証明書
・固定資産税納税通知書
登記事項証明書は法務局で戸籍謄本や住民票、印鑑登録証明書などは市区町村の役場で取得できます。
また固定資産税納税通知書は、毎年自治体から送られてくるものを用意しておきましょう。
必要書類がないと申請ができないので注意しなければなりません。
滞りなく相続登記を完了させるためにも、事前の準備はしっかり行いましょう。
法務局に書類を提出する
申請書類が完成したなら、法務局にて申請を行います。
相続登記は不動産が所在する地域を管轄する法務局で行う必要があります。
相続登記の申請は法務局の窓口で直接行うだけではなく、申請書を郵送したり、オンラインで申請したりすることも可能です。
自分に合った方法で申請をすることがおすすめであり、スムーズに登記ができるようにしておきましょう。
所有者が死亡時の家の名義変更にかかる費用
家の名義変更をする際には費用もかかります。
どれくらいの費用がかかるのかを知っておくことで資金を準備しやすくなります。
スムーズに必要な費用を支払うためにも、費用についての理解も深めておきましょう。
必要書類を取得するための費用
名義変更の手続きをするには登記事項証明書や住民票、戸籍謄本や印鑑登録証明書などを取得する必要があり、これには費用がかかります。
それぞれ市区町村で費用が異なりますが、1つの書類につき大体300~700円ほどで全体で見ると3,000円程度です。
1通ずつの費用はそれほど高くありませんが、全体で考えると数千円はかかります。
相続登記の登録免許税
相続登記の際には登録免許税がかかり、これは固定資産税の評価台帳に記載された不動産評価額に0.4%の税率をかけて計算します。
土地と家の両方を相続する場合は、それぞれで登録免許税がかかることは覚えておきましょう。
名義変更を行う理由によって登録免許税の税率は異なります。
売買で名義変更を経験された方などは間違わないように注意しましょう。
司法書士に依頼した場合の報酬
相続登記は司法書士に依頼することも可能であり、この場合は報酬の支払いが必要です。
かかる費用はどこまでの手続きを任せるかによって異なります。
申請書の作成などは自分で行い、登記のみ司法書士に依頼する場合は3~7万円程度が相場です。書類の作成から取得までのすべてを依頼する場合は、7~15万円程度の費用がかかります。
またこれは司法書士への報酬のみの費用であり、実際にはこれに登録免許税がかかることも覚えておきましょう。
まとめ
所有者が亡くなり相続が発生した場合には、期限はありませんがなるべく早く名義変更を行うようにしましょう。
時間が経ってから利権関係で揉め事が起きたり、不動産売却をしたい場合など様々な場面でリスクが発生するからです。
何かわからないことや別の相続が発生した場合は司法書士や弁護士などの専門士に相談するようにしましょう。